まずはご報告であります。
『太陽と乙女』(新潮文庫)
6月24日、森見登美彦氏のエッセイ集『太陽と乙女』文庫版が発売となる。
デビューから十七年、ほぼすべてのエッセイをぎゅうぎゅうに詰めこんであるので、文庫版はじつに561ページという大ボリュームとなった。じつに愛らしいコロコロ感、まえがきにあるような「寝る前に読む本」としても長持ちするにちがいない。文庫化にあたって、(1)マンガ版『太陽の塔』に寄せたあとがき、(2)西東三鬼『神戸・続神戸』に寄せた文庫解説を追加している。
さらに特別付録的な意味で「このエッセイはフィクションです」という長めの文庫あとがきをつけた。「いかに自分はエッセイを書くのが苦手であるか」という嘆きをぷちぷちと書き綴ったもので、どう考えてもエッセイ集の締めくくりにはふさわしくないが、書いてしまったものはしょうがない。
以下、登美彦氏がとくに気に入っている文章のタイトルを挙げる。
・カレーの魔物
・『有頂天家族』第二部刊行遅延に関する弁明
・或る四畳半主義者の思い出
・マンガ版『太陽の塔』あとがき
・長い商店街を抜けるとそこは
・ならのほそ道
第一回 生駒山
第二回 大和西大寺駅
第三回 大和文華館と中野美術館
第四回 志賀直哉旧居
第五回 高山竹林園
・春眠暁日記
・窓の灯が眩しすぎる
・記念館と走馬灯
・「森見登美彦日記」を読む
最近、登美彦氏はいよいよエッセイを書かなくなってきた(その深遠な理由については本書収録の「このエッセイはフィクションです」を参照)。こんなノロノロしたペースでは、次のエッセイ集を出版できるだけの分量が溜まるのは遥か遠い未来、もしかするとエッセイ集なんて二度と出版できないかもしれない。
というわけで、この本がオモシロいかどうかは個人の趣味の問題だが、めずらしい本であることだけはたしかである。買うなら是非ともお早めに、どうぞよろしくお願いいたします。
あと「ならのほそ道」で思いだしたが、登美彦氏の奈良仲間・前野ひろみち氏の『満月と近鉄』も好評発売中なので、あらためて宣伝しておく。登美彦氏と前野氏の対談も巻末に収録されている。登美彦氏による「ならのほそ道」と合わせて読めば、いっそう奈良に心惹かれること間違いなし。
京都もいいが、奈良もいい。
森見登美彦氏、読んではならぬ怪文書を読む。
たしかにこれは「怪文書」である。
賢明なる読者諸氏はこんな胡散臭い文章を読んで時間を空費してはならない。この記事において仄めかされていることが真実か否か、そんなことは前野ひろみち氏の著作を自分で読めば容易に判断できよう。
なお、前野ひろみち氏のinstagramは「さすが畳屋さん」というべし、ストイックで素敵なものである。そこに広がる畳宇宙を眺めていると、奈良の水田に吹きわたる初夏の風さえ感じられる。主題が「畳」であるだけに、元四畳半主義者の登美彦氏としても注目せざるを得ないのである。
https://www.instagram.com/hiromichi_maeno/
前野ひろみち『満月と近鉄』(角川文庫)
森見登美彦氏が「四畳半タイムマシンブルース」という畳ギャラクシーSFの連載を始めるのと時を同じくして、奈良の畳屋さん・前野ひろみち氏の伝説的短編集(『ランボー怒りの改新』)が、そのタイトルを『満月と近鉄』とあらためて角川文庫に入った。これも何かのご縁である。
「佐伯さんと男子たち1993」「ランボー怒りの改新」「ナラビアン・ナイト 奈良漬け商人と鬼との物語」そして表題作「満月と近鉄」、いずれも奈良を舞台にしたバラエティのありすぎる四作から成る短編集であり、この文庫版には仁木英之氏の解説に加えて、前野ひろみち氏と登美彦氏の対談も収録されている。
奈良を舞台にした小説といえば、万城目学氏の『鹿男あをによし』を思い浮かべる人もあるだろう。しかし登美彦氏はいささかのためらいもなく奈良の浪漫派・前野ひろみち氏の肩を持つ。奈良を愛する人、近鉄電車を愛する人、べつにどちらでもない人、あなたも私も、みんな読むべき傑作である。
森見登美彦氏、生配信をする。
先日お知らせしたとおり、カドブンというところで「四畳半タイムマシンブルース」の連載が始まった。小説『四畳半神話大系』と舞台『サマータイムマシン・ブルース』を強引に融合させてしまおうという企画である。
原案者の上田誠氏に「せっかくなのでお祝いをしましょう」と誘われた。というわけで、5月19日の夜22:00から二人でひっそりお祝いをする。
お暇な方は「ヨーロッパ企画の生配信」を覗いてください。
『四畳半タイムマシンブルース』連載開始
うかうかしているうちに、
『四畳半タイムマシンブルース』、
本日からカドブンにおいて掲載開始である。
五月、六月、七月の三ヶ月にわたって連載される。
森見登美彦氏の小説『四畳半神話大系』およびヨーロッパ企画の舞台「サマータイムマシン・ブルース」に基づく。ようするに明石さんや「私」、小津や樋口氏や羽貫さんや城ケ崎氏という『四畳半神話大系』のキャラクターたちが「サマータイムマシン・ブルース」をやればどうなるか、という素朴な発想である。
『四畳半神話大系』は十六年前の作品であり、湯浅政明監督によるテレビアニメでさえ十年前。すでに不惑を過ぎた作者としては今さら四畳半世界へ戻るのも気恥ずかしく、「満を持して」などというべきタイミングも逸している。何もかもが手遅れだ。しかし思いついてしまったのだからしょうがない……しょうがないのである……。
ヨーロッパ企画の上田誠氏には「四畳半神話大系」「夜は短し歩けよ乙女」「ペンギン・ハイウェイ」のアニメ化でたびたびお世話になってきた。今回の企画はいわばその「恩返し」を、遅ればせながら目指したものである。うまくできたかどうかはともかくとして。
あわせて原典も楽しんでいただければ幸い。
とはいえ、原典を知らなくても本作を読むにあたって支障はない。
『フジモトマサルの仕事』(平凡社)
マンガ版『太陽の塔』完結する。
2019年もそろそろ終わろうとしている。
登美彦氏は次回作の初稿をせめて年内に仕上げようと苦闘していたが、先週末あたりから「どうやらこれは来年に持ち越しになりそうだ」という顔つきを誰にともなく見せはじめ、今では机に向かって奈良の大仏みたいに半眼となり、ただただ穏やかな諦めの境地に達している。なんぴとといえども(編集者といえども)登美彦氏の心の平穏を乱すことはできないのである。関係各位ごめんなさい。
そんな登美彦氏の次回作はともかくとして、雑誌「モーニング・ツー」で連載が続いていたコミック版「太陽の塔」がこのたび遂に完結した。先日のクリスマス・イブ、登美彦氏はその刊行を記念して、著者のかしのこおりさんと担当編集者とともに、京都市内の書店をまわってサイン本を作った。最終巻の内容に合わせたクリスマス直前の刊行は、かしのこおりさんと担当編集者の執念のたまものである。にもかかわらず、当日誌でクリスマス前に告知できなかったことをお詫びしたい。
原作小説『太陽の塔』は傑作である。
マンガ版『太陽の塔』も傑作である。
最終巻には登美彦氏が十六年の歳月を経て「激筆」した後書きも収録されている。 クリスマスは過ぎたとはいえ、まだまだ冬はこれからである。年末年始のお休みにでも、ぬくぬくとコタツにあたりながら読んでいただければ幸いである。我々としては新鋭かしのこおりさんの次回作に期待したいが、まず登美彦氏は己の次回作の心配をすべきであろう。
『ぐるぐる問答 森見登美彦氏対談集』(小学館)
『夜行』(小学館文庫)
いつの間にか秋になっている。
そしてまたいつの間にか、森見登美彦氏の『夜行』も小型化されるときがきた。大きなものと小さなものをそろえるのは紳士淑女のたしなみである。尾道・奥飛騨・青森・天竜峡・鞍馬いずれかの写真をプリントしたポストカード(登美彦氏の短いエッセイ「夜の車窓」つき)も挟みこまれている。
言うまでもなく秋は旅の季節であり、登美彦氏も二つの旅を予定している。この小さな本を旅先の宿で読めばキモチワルイ臨場感が増すことウケアイ。そのためにこそ、この小さな本はある。
文庫版『夜行』といっしょに、込由野しほ氏の手になるコミック版の『夜行』も刊行される。こちらもよろしくお願いします。
さらにこのたび、創元推理文庫から刊行中の『平成怪奇小説傑作集』の第二巻に、登美彦氏の短篇「水神」が収録された。今年の夏、登美彦氏は「夏こそ怪奇小説を読むべきである」と書いたが、さらに「秋こそ怪奇小説を読むべきである」とつけくわえるべきだろう。ところで、その昔イギリスではクリスマスに怪談話を楽しんだらしい。冬も怪奇小説によく似合う。というわけで、一年の大半は怪奇小説の季節なのである。