森見登美彦氏が「四畳半タイムマシンブルース」という畳ギャラクシーSFの連載を始めるのと時を同じくして、奈良の畳屋さん・前野ひろみち氏の伝説的短編集(『ランボー怒りの改新』)が、そのタイトルを『満月と近鉄』とあらためて角川文庫に入った。これも何かのご縁である。
「佐伯さんと男子たち1993」「ランボー怒りの改新」「ナラビアン・ナイト 奈良漬け商人と鬼との物語」そして表題作「満月と近鉄」、いずれも奈良を舞台にしたバラエティのありすぎる四作から成る短編集であり、この文庫版には仁木英之氏の解説に加えて、前野ひろみち氏と登美彦氏の対談も収録されている。
奈良を舞台にした小説といえば、万城目学氏の『鹿男あをによし』を思い浮かべる人もあるだろう。しかし登美彦氏はいささかのためらいもなく奈良の浪漫派・前野ひろみち氏の肩を持つ。奈良を愛する人、近鉄電車を愛する人、べつにどちらでもない人、あなたも私も、みんな読むべき傑作である。