いつの間にか秋になっている。
そしてまたいつの間にか、森見登美彦氏の『夜行』も小型化されるときがきた。大きなものと小さなものをそろえるのは紳士淑女のたしなみである。尾道・奥飛騨・青森・天竜峡・鞍馬いずれかの写真をプリントしたポストカード(登美彦氏の短いエッセイ「夜の車窓」つき)も挟みこまれている。
言うまでもなく秋は旅の季節であり、登美彦氏も二つの旅を予定している。この小さな本を旅先の宿で読めばキモチワルイ臨場感が増すことウケアイ。そのためにこそ、この小さな本はある。
文庫版『夜行』といっしょに、込由野しほ氏の手になるコミック版の『夜行』も刊行される。こちらもよろしくお願いします。
さらにこのたび、創元推理文庫から刊行中の『平成怪奇小説傑作集』の第二巻に、登美彦氏の短篇「水神」が収録された。今年の夏、登美彦氏は「夏こそ怪奇小説を読むべきである」と書いたが、さらに「秋こそ怪奇小説を読むべきである」とつけくわえるべきだろう。ところで、その昔イギリスではクリスマスに怪談話を楽しんだらしい。冬も怪奇小説によく似合う。というわけで、一年の大半は怪奇小説の季節なのである。