六月八日の記述についての反省文。


 筆者があんなふうに無用の反論を書いてしまったのは、学生時代の登美彦氏のみっともなさや情けなさ、哀しみや煩悶、それらの陰影と切り離せない愛すべき事柄の一切が、「モテモテであった」という一言のもとに切って捨てられるように思われたからである。
 登美彦氏は自身の学生時代の実感に対して、過剰な「愛憎の念」を抱いている。無闇に四畳半小説を書いてしまったことへの当然の報いであろう。だからこそ「自分の青春はそんなものではなかった」とうるさく言いたくなるのだ。
 しかし、登美彦氏の個人的事情や感慨、拘泥するその微妙なニュアンスなんぞ、他人にはなんの意味も持たない。
 あのように衝動的な文章を書くことは、当日誌の運用方針に反している。そういうわけで六月八日の記述は削除させていただきたいと思う。できるだけ努力しているのだが、それでも数年に一度、筆者はかくのごとき恥ずべき失敗を執りおこなう。
 読者の皆様のお許しを願うものである。
 
 というようなことを、連載小説「シャーロック・ホームズの凱旋」最終回をようやく書き上げ、憎むべき締切地獄から解放された今日、登美彦氏はじっくりと考えたわけである。
 中央公論新社「小説BOC」は次号をもっていったん終了となる。デビュー以来十五年、登美彦氏がその背中を追いかけてきた(つもりの)伊坂幸太郎氏との初対談も収録される。
 手に取っていただければ幸甚である。
 何卒よろしくお願いします。

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