登美彦氏、吉田山の先生と語らう


 「貴君の『深海魚たち』を拝読したよ」
 「ありがとうございます」
 「私をモデルにしたのだからモデル料を貰わんといかん」
 「あげません」
 「そういうことを言っていると、あいつは他人をダシにして原稿料を稼ぐ不届きな奴ということで、世間に顔向けができなくなるよ。いずれは夜道で襲われて、琵琶湖疏水に投げ込まれることになる」
 「それは脅しですか」
 「可能性の話だよ。夜道を歩く時には気をつけるがいい」
 「そうしましょう」
 「それにしても、貴君はいつまでこれをやるつもりだ。また腐れ大学生と黒髪の乙女ではないか。黒髪の乙女を追うだけで一生を終える気か」
 「本望ですな」
 「たとえばこのような黒髪の乙女以外の、他の女性との灼熱の恋の物語とか、書く気はないのか」
 「興味ありませんな」
 「冒険する気はないのか」
 「ないですな」
 「ほかに書くことはないのか」
 「ないですな」
 「たとえば私の人生論などを代筆して、大ベストセラーとか、いかがか?。印税のうち、三分の一ぐらいは貴君にあげてもいい」
 「そんな汚いもんいりません」
 「マンネリから脱却せないかんとか、そういう焦りはないのか」
 「ないですな」
 「貴君は、それで楽しいのか」
 「楽しいですな」
 「むむ。もう君には意見してやらんが、いいか」
 「マンネリ上等、御意見無用」