西東三鬼『神戸・続神戸』(新潮文庫)

神戸・続神戸 (新潮文庫)

神戸・続神戸 (新潮文庫)

 

 西東三鬼『神戸・続神戸』が新潮文庫になるという。

 というわけで、森見登美彦氏は解説を書いた。いささかマジメに書きすぎた。しかしマジメにならざるを得ない名作なのである。これはステキに薄っぺらい文庫本で(登美彦氏は薄っぺらい文庫本を愛する!)、お値段もステキにお手頃となっているから、ぜひとも手にとっていただければと思う。

 まるで人の良い天狗が書いたような本である。

 以下の引用は、謎のエジプト人マジット・エルバ氏と西東三鬼が、戦時下の神戸にあるホテルの一室でレコードを聴く場面から。 

 マジットも私も貧乏だったので、夜は大抵どちらかの部屋で、黙って煙草を吹かすのが常であった。私の部屋には十数枚のレコードがあった。それは皆、近東やアフリカを主題とした音楽で、青年時代からの、私の夢の泉であった。私達は、彼が何処からか探しだしてくるビールを、実に大切に飲みながら、一夜の歓をつくすのであったが、彼はレコードの一枚毎に『行き過ぎの鑑賞』をして、砂漠のオアシスや、駱駝の隊商や、ペルシャ市場の物売婆を呼び出し、感極まってでたらめ踊りを踊り、私はそれに狂喜の拍手を送るのであった。そういう我等を見守るのは、どのような神であったか。所詮は邪教の神であって、一流の神様ではなかったであろう。