『ペンギン・ハイウェイ』日本SF大賞をいただく


 ペンギン・ハイウェイ


 森見登美彦氏の第十子『ペンギン・ハイウェイ』が日本SF大賞をもらうことになった。


 この栄誉はあくまで我が子のものであって、登美彦氏などはほんのオマケに過ぎない。だからあまり親がしゃしゃり出て、自慢げにしてはいけないのである。
 他の作品とちがって腐れ大学生でもなく京都が舞台でもなく、なんとなく仲間はずれで淋しそうにぷるぷるしていた我が子が、今ここに大きな賞で認められて、少し落ち着いてシャンとしてきた。
 登美彦氏はただそのことを喜んでいる。


 なお『ペンギン・ハイウェイ』は、スタニスワフ・レムの『ソラリス』を読んだ感動から生まれ落ちた作品であって、『ソラリス』がなければ『ペンギン・ハイウェイ』はなかった。
 スタニスワフ・レムという雲の上の大作家から見れば「トミヒコ氏?ダレそれ?」となるに決まっているし、また『ペンギン・ハイウェイ』は登美彦氏が書いたものなのだから『ソラリス』とぜんぜん違うものである。
 それでも登美彦氏は、スタニスワフ・レム氏に感謝している。

 
 ソラリス (スタニスワフ・レム コレクション)  ソラリスの陽のもとに (ハヤカワ文庫 SF 237)

 『美女と竹林』 (光文社)


 美女と竹林 (光文社文庫)


 森見登美彦氏の作品の中でも、無益さにかけては他の追随を許さない作品が小型化される。
 当初、登美彦氏は「竹を刈る」という斬新なテーマの連載エッセイに挑んだと主張していたが、そのような気配は開巻早々消え失せる。
 そこから先に広がるのは恐るべきぐだぐだ世界である。 
 読む人はその凄絶なぐだぐだぶりに戦慄するであろう。
 というようなことを書くと、「ぐだぐだの頂点を極めることによりかえって面白い作品になっているのではないか」と好意的に解釈してくれる心優しい人があるかもしれない。
 そういう人はステキにぐだぐだな人である。


 なお、この文庫化にあたって「番外篇」という章が新たに追加された。
 登美彦氏と編集者たちは、この新章によってそれまでのぐだぐだぶりをなんとかしたいと目論んだ。いわば読後感の一発逆転を図ったのである。
 しかし、全世界で日夜夢想されている一発逆転の奇策というものはたいてい失敗する。
 結果として登美彦氏は、この世界にまた一つぐだぐだの文章を加えたのである。
 「これは裏山の和尚さんの『ぐだぐだ』の呪いだ」
 登美彦氏は述べている。
 「今後一生かけて番外篇を何十編書き連ねたところで、『美女と竹林』がぐだぐだでなくなることなど決してないのだ。くわばらくわばら」


 ちなみに筆者はこんなことを書いているが、登美彦氏自身は『美女と竹林』を愛しているのである。
 そのあたり、誤解しないでいただければ幸いである。