『聖なる怠け者の冒険』(朝日文庫)


 

聖なる怠け者の冒険 (朝日文庫)

聖なる怠け者の冒険 (朝日文庫)


 森見登美彦氏が散歩していると涼しい風が吹いてきた。
 「空は夏、風は秋」
 登美彦氏はなんとなく詩人風の顔つきをした。
 そして風に吹かれながらボンヤリと空を眺めた。


 この「2016年の夏」は何だったのであろうか。
 それは机上を通りすぎた一瞬のマボロシであった。
 奈良盆地でポカンとしがちな登美彦氏にとって、この夏はあまりにも忙しすぎたのである。じつはまだもう一つ終わらせるべき仕事が残っているのだが、もう登美彦氏の脳味噌はすりきれている。なかなか前へ進まない。


 ところで九月七日、『聖なる怠け者の冒険』が小型化される。

【初版限定】
 「リバーシブルカバー」&「著者のメッセージカード」付き!
 メッセージカードは全部で3種類!
 どれが当たるかはお楽しみ!!


 とのことである。
 なお、物語の内容は変わらないが、全体的にシェイプアップされている。
 新聞連載版→単行本版→文庫版と化け続ける狸的な本ということでお許しください。


 『聖なる怠け者の冒険』は「十周年記念作品」である。
 十周年記念の最後を飾る作品『夜行』が出版されるのを待つことなく、十周年記念第一作が文庫化されるのは奇妙なことではなかろうか――そう言う人もあるだろう。
 たしかにそうである!
 正論である!
 しかし正論どおりにいかないのが登美彦氏である。 
 「あと少し早く『夜行』が完成していれば、文庫化に追いつかれることもなかったのに――」
 登美彦氏は無念そうに呟く。
 「じつにややこしいことになってしまった。これはもう、やむを得ぬ!」