フジモトマサル氏


 聖なる怠け者の冒険 挿絵集


 フジモトマサル氏が亡くなった。
 かつて森見登美彦氏が雑誌で「有頂天家族」を連載したとき、初回の挿絵を担当したのがフジモトマサル氏だった。
 狸小説がきっかけで出会ったのだから、数年後に「聖なる怠け者の冒険」というぽんぽこ小説を朝日新聞夕刊に連載するにあたって、氏に挿絵をお願いしたのは当然のなりゆきであろう。しかし予想外だったのは、原稿が凄まじく難航したことである。無謀な綱渡り新聞連載にフジモト氏を巻きこんだことを幾度も申し訳なく思ってきたし、このたびの訃報に接して登美彦氏はまた同じことを思う。
 悪戦苦闘の末、ようやく『聖なる怠け者の冒険』が出版されたとき、フジモト氏の『聖なる怠け者の冒険 挿絵集』もまた一緒に出版された。それが登美彦氏は本当に嬉しかった。『挿絵集』は凝りに凝った作りのオモシロ美しい本で、挿絵の一点一点にフジモト氏のコメントがついている。昨夜、登美彦氏はもう一度その挿絵集を読み返し、フジモト氏のクールなコメントの数々に「ご迷惑をおかけしました」と謝った。迷走する連載を最後まで支えてくれたのはフジモトマサル氏の挿絵だった。
 ご冥福をお祈りいたします。


 終電車ならとっくに行ってしまった