サイン会御礼と、向井理氏の来訪

 
 聖なる怠け者の冒険 聖なる怠け者の冒険 挿絵集


 森見登美彦氏は東京、名古屋、大阪、京都のサイン会を終えた。
 サイン会は楽しく始まり、楽しく終わった。
 あまりにも大勢の人たちと連続して会ったので登美彦氏の脳天に血がのぼったことを除けば、サイン会は平和に進んだ。
 登美彦氏の著作を介して知り合ったという何組もの男女が結婚を報告したので、登美彦氏は「そろそろ本気で縁結びの神社でも作ってみてはどうか」と考え、「登美彦神社」の賽銭箱に投げ込まれる莫大な浄財のことを夢想した。そうするとますます脳天に血がのぼった。
 東京のサイン会にはアルパカ仮面が出現し、京都のサイン会にはアメリカ出身の乙女がやってきた。乙女たちと男たちから贈られた熱意の籠もったファンレターや風変わりな小物、カステラや「ぽんぽこおやじ」などのお菓子は、登美彦氏を圧倒した。
 読者の方々、出版社の方々、そして書店の方々に、登美彦氏は御礼を述べる。
 「どうもありがとうございました」
 ところで筆者が思うに、登美彦氏の書くものには多少の愉快なところはあるにせよ、登美彦氏という人間その人には特筆すべきことは何もない。読者のステキな想像を邪魔するなという意味で、「作家というものは隠れているほうがいい」という人もある。筆者もそう思うことがある。
 とはいえ登美彦氏も、たまには脳天に血をのぼらせたいと思う人物なのである。たとえ終わったあとはフラフラになるにせよ。
 「許し給え」
 実物の登美彦氏を見てガッカリした人は、そのガッカリ感を大切に、これからもシッカリ生きていっていただければ幸いである。


 また、登美彦氏はたくさんの取材を受けた。
 すでに掲載されたものもあるし、これから掲載されるものもある。
 某月某日、ミシマ社というヘンテコなる会社のミシマさんというヘンテコなる社長が仕事場へやってきて、「森見さんの小説は近鉄文学でしょう?そうではないですか!きっとそうだ!」と無闇に興奮していたので、「おやおや?」と思っていたら、やはりヘンテコな話になったのである。 
 そのヘンテコなる記事は、ミシマガジンの「本屋さんと私」というところで読める。
 http://www.mishimaga.com/hon-watashi/083.html


 ミシマ社長が帰って平和になったと思ったら、今度は向井理氏が仕事場へやってきた。「AERA」という雑誌で、向井氏がいろいろな仕事をする人にインタビューをするという企画である。
 そもそも向井氏は『有頂天家族』をテレビで推薦してくれたこともあるステキな人であるから、インタビューは終始和やかな雰囲気で進んだ。
 ところで向井氏は恥ずかしがり屋である。登美彦氏も同じく恥ずかしがり屋であるが、共通するのはそれぐらいで、他は大幅に異なっている。向井氏のオーラはそれはもうスゴイもので、鴨川べりでいっしょに写真を撮ろうものなら、道ゆく人々がデンデン太鼓のようにポコポコ振り返るのだった。大きな紙袋を頭から足先までスッポリかぶせなければ、向井氏のオーラは隠せそうにない。
 「これはたいへんな生活ですなあ」と登美彦氏は思った。
 ちなみに登美彦氏は、長年にわたる血の滲むような修業の末、あらゆるオーラを徹底して削り取ることに成功したと主張している。