登美彦氏、大学生たちに会いに行く


 本日は快晴であった。


 登美彦氏は仕事場でうにうにとした後、東高円寺というところに出かけた。
 すると、そこでは「第4回読書マラソン交流会・リーダーズフェスタ」なる、お祭りめいたものが開催されていて、大勢の大学生たちが待っていた。
 登美彦氏の作品を読んでくれる学生たちの集まりである。
 間違っても、三島由紀夫VS東大全共闘みたいなことにはならない。


 何度も述べるように、登美彦氏は人前で喋るのが苦手である。
 喋っているうちに自分が何を喋っているのか分からなくなって、話をしかるべきところに落とすことに苦労する。そういうわけで、集まった大学生たちは、どこへ流れていくのか分からない曖昧な話をえんえんと聞くことになってしまった。
 登美彦氏の曖昧で実益のない話が終わったあと、サイン会が行われた。
 たくさんの人にサインをして疲労したにせよ、登美彦氏は久しぶりに賑やかなところへ出て、いくらかアタマの風通しを良くしたようでもあるという。


 サイン会のときに一人の学生がこんなことを言った。
 「万城目学さんのオーサーズ・ビジットというのにも参加したんです」
 「ほうほう」
 登美彦氏は言った。「あれは僕もやりました」となぜか自慢した。
 「そこで万城目さんが森見さんに殴られたと仰ってました」
 「え、殴られた?」
 「本屋大賞の授賞式会場で、なぜか分からないけど、いきなり森見さんに初対面で殴られたそうです。ホントですか?森見さんはそんな暴力的人物なんですか?万城目さんがかわいそうだと思います」
 

 その万城目学氏殴打事件については、きちんとした理由がある。
 登美彦氏の生涯初の特集が行われた雑誌「野性時代」において、万城目学氏が「次に会ったときには殴ってください」というコメントを寄せてくれたので、登美彦氏はその要求にこたえなければいけないと思った。そういうわけで、本屋大賞の授賞式会場で万城目学氏と会見した際、温厚な人柄にも似合わない行動を敢えてした。
 つまりそれは万城目学氏からの依頼であったのだ。 
 万城目学氏は、その巧みな話術を駆使して、登美彦氏の暴力的人物像を純朴な大学生たちに植え付けようとしている。
 「小説すばる」において「偉大なるしゅららぼん」を連載している合間に!
 油断も隙もありゃしない!


 「良識ある皆さんは、万城目学氏の言うことを信用してはいけませんよ!」
 登美彦氏は言っている。