洛西の竹林で登美彦氏とともに竹を刈り、しきりに嫁を探していた明石氏は、登美彦氏が東京に転勤になるのと時を同じくして司法修習を終え、東京にやってきた。
彼は大きな弁護士事務所にて、寝る間を惜しんで働いている。
わざわざ東京まで出かけてきたにもかかわらず、彼らの勤めているところは二駅しか離れておらず、これは運命の黒い糸と呼ぶべきであるが、そのわりに会うことは少ない。
もちろん、久しく二人で竹を刈ることもない。
さすがに竹を刈りに出かける時間的余裕がないのである。
明石氏は寝る間を惜しむ生活のかたわら、深夜の書店に出かけて『ペンギン・ハイウェイ』を買い、登美彦氏が私腹を肥やすのに貢献してくれた。
「あんたも『ペンギン・ハイウェイ』を読んで、少しは大人になりなさい」
とある女性がそう言って彼を諭したという。
「俺も真面目に『ペンギン・ハイウェイ』読んで、大人になるわ」
明石氏は言った。
しかし明石氏が大人になれるかどうかは分からない。
「大人になれたら連絡をくれたまえ」と登美彦氏は言った。