※発売予定日10月15日(木)
芽野史郎は激怒した。必ずかの邪知暴虐の長官を凹ませねばならぬと決意した。
芽野はいわゆる阿呆学生である。汚い下宿で惰眠をむさぼり、落第を重ねて暮らしてきた。しかし厄介なことに、邪悪に対しては人一倍敏感であった。
森見登美彦氏が朝日締切次郎と格闘したり、その合間を縫うようにしてStoryboxに載せる「夜行」を書いたり、その合間にリンパ腺を腫らして寝込んだり、「ペンギン・ハイウェイ」の原稿を前にして髪の毛をかきむしったりしている間に、ちゃくちゃくとこのシブい息子が小型化を遂げていたのであった。
単行本の装幀をそのままに小さく、さらに可愛く、懐にもやさしくなっていたのである。
なんということか。
小型化にあたって、このシブい息子はいくつものおまけを導入した。
・芽野史郎はいかにして京都の街を逃げたか―彼の華麗な逃避行が一目で分かる地図。
・文庫本用のあとがき。
・今冬に劇場公開される映画「東のエデン」を作るためにぷろだくしょんIGというところで恐ろしく過酷な戦いを続けている神山健治監督の多忙極まる日常から華麗にもぎとった時間から生み出された「解説」。
ここに登美彦氏は長い空白の時をこえてちゃっかりと電子の海に顔を出し、息子の宣伝をするのである。
「どうか、みなさん、よろしく」
そして登美彦氏は太宰治のことを考える。
「せっかく太宰治生誕百年の記念すべき年でもあるのだから。今年の想い出にぜひ一冊」
いささか強引な理屈である。
登美彦氏は文庫本の完成に合わせて、小さなサイン会をするという。
小型化したのだから、サイン会も小型化するのである。
いつもぎりぎりの唐突なお知らせになって申し訳ない次第だが詳細は以下である。
『新釈 走れメロス 他四篇』小型化記念サイン会
日時 10月18日(日) 15時〜
オリオン書房ノルテ店(東京都立川市)
TEL 042−522−1231 要整理券
追加のお知らせとして、十一月には登美彦氏が恐れ知らずにも選び、生意気にも解説をつけた太宰治の短編集が出る模様である。もちろん掉尾を飾るのは「走れメロス」をおいてほかにない。
あわせてお読みいただければ幸いである。