森見登美彦氏が草原に立っている。
空は美しく晴れ上がり、良い薫りの風が渡っていく。
ウエハースのように薄っぺらい白い月が浮かんでいる。
さわさわとうねる草がまるで海のように見渡すかぎり広がっている。
目的地はいささか遠いので、まだ見えない。
登美彦氏が後ろを振り返ると、15日分ほど後ろに、締切次郎の姿が見えた。
「おお、意外に近くにいる…」
登美彦氏はどきどきした。
やがて登美彦氏は靴ひもをしっかりと結び直し、位置についた。
「そろそろ参りましょう」と言った。
妻が洗いものを終えて手を拭き、トコトコとやってきた。
「よーい」と言い、ピストルを月に向けた。
「パンッ!」
ピストルが鳴ると同時に、登美彦氏は走りだした。
ぽてぽてと締切次郎たちも腹を揺らして走りだした。
そういうわけで、登美彦氏はこれからしばらく逃げ続ける。
「人生は逃亡である」
と、登美彦氏は言っている。