「パピルス」(幻冬舎) 19号


  「大文字納涼天狗合戦」(有頂天家族第二部)


 物欲を満たすことに重きをおいて肝心なことを軽んじるのは人間の十八番だが、狸だってえらそうなことは言えない。世の中に散らばっている珍奇なもの、ピカピカしたもの、かわゆいものが、狸たちの尻をむずむずさせる。これをこらえるのは難儀なことだ。


 誰かが物をなくし、それを狸が寝床に隠す。
 これはしきたりである。


 自慢の品で寝床を埋めるのはむやみに楽しいが、愛蔵品に押し出されて寝床を失うことにもなりかねない。そういうときは「市」に出る。寝床が片づくばかりでなく小金さえ手に入るのだから、物欲の報いで息がつまりそうになっている狸にとって、これほどありがたいものはない。かくして、洛中に立つさまざまな市には、狸の寝床から溢れ出した品々が怒濤のごとく流れ込むのである。


 気長に待つならば、洛中の失せ物は必ず出る。