二月頃、森見登美彦氏は創造の泉が枯れた音を聞いた。
ただでさえ小さな泉であったのに・・・
もはや小説を書き続けることはできない。
暗雲垂れこめる未来に関する妄想がつぎつぎと脳裏に浮かぶ。
とても仕事が手につかない。
しかし不思議なのは、暗雲垂れこめる未来に関することはいくらでも想像できることである。
「そんな想像力はいらんぜよ!」
登美彦氏は断崖に立って坂本龍馬風に叫ぶ。
「もっとオモチロイ想像力が欲しいぜよ!」
そういうわけで登美彦氏はいろいろと迷惑をかけている。
次こそはきちんと間に合わせようと思うのだが、しかし、いつも限界に挑戦することとなる。
登美彦氏が挑戦すべきは、そんな分野ではないはずだ。
締切のフロンティアを切り開いたところで何となろう。
そして、それは他の工程の方々に迷惑をかけるということなのである。
「申し訳ございません!」
登美彦氏は土下座する。「しかし、やむを得ない!」
近年「やむを得ない」が登美彦氏の書斎における流行語だ。