登美彦氏、殺意をおぼえる。


 森見登美彦氏は高熱を発して丸二日寝込んだ。


 丸二日寝込んだあとに待っていたのは締切であった。
 それもたくさん。
 締切がたくさん。
 締切がたくさんあるときにかぎって、
 なんだか「ゲラ」というものも、
 たくさん宅急便で送られてくるのである。
 世の中というのはそういう仕組みになっている。


 あれもこれもしなくてはならない。
 という事態に陥ったとき、
 むしろ人は何も思いつかなくなってしまう。
 頭はがやがやと活動しているわりには、
 有益な考えは何も滲みだしてこない。


 登美彦氏は二○○八年こそは、
 このような事態に陥るまいと考えていたが、
 早々と陥ってしまった様子である。


 登美彦氏は誰にともなく殺意を覚えるのだが、
 しかし誰に殺意を向けるべきであろうか。
 しかたなく締切次郎に向けるとしても、
 しかし、
 それでは何者かの思うツボではないのか。