「小説宝石」 12月号


美女と竹林 「登美彦氏の夏'07」


 二○○七年の春から夏にかけて、登美彦氏はもみくちゃにされていた。
 もみくちゃにされながら登美彦氏は、二十八年前、とりあえず居心地のいい<暗い部屋>から、この世へ引っ張り出されたばかりの頃のことを思い出した。
 「当時も俺はもみくちゃにされていたっけ」
 なぜなら、父方、母方、ともに初孫であり、その後数年は両家の愛情を一身に浴びることになったからである。あまりの太りぶりに「ぶうぶうパンダ」と呼ばれた登美彦坊やの行くところ可ならざるはなかった。