「asta*」 8月号


恋文の技術 第五話「孤高のマンドリニストへ」


 今も銀行員のかたわら、マンドリン道を究めておられますか?
 正直なところ、先輩のマンドリンの腕前はいまだに謎です。マンドリンを弾くより語っている方が長かったからです。マンドリンオーケストラを飛び出す羽目になった理由もなんとなく想像がつくというものです。
 丹波マジックにひっかかった学生たちと一緒に、先輩の「俺の奇兵隊」に加わりながら、維新も起こさず、学問にも励まず、ぐうたら朝寝をしていた頃のことを懐かしく思い出します。あの何ものにも束縛されず、そして何ものをも生み出さなかった光輝く青春の日々に、一度でいいから戻りたい。そしてすべてをやり直したい。
 もう少しなんとかならんかったのかと思うわけですよ。
 もう少しなんとかなっていたら、こんな山奥で恋文代筆のベンチャー企業を設立する夢を孤独に育む羽目にもならなかったと思うわけです。
 そういうわけで恋文の書き方を教えてください。


                            恋文初心者守田一郎


  丹波師匠 足下