登美彦氏、スランプから復活。


 森見登美彦氏は机の前から身動きできない黄金週間を迎えた。
 とはいえ実質的に進む量は微々たるものである。なぜなら登美彦氏が執筆するときの合い言葉は「三歩進んで二歩下がる」だからである。登美彦氏がダメになってくると、合い言葉は「三歩進んで三歩下がる」となり、さらにダメになってくると「三歩進んで四歩下がる」となる。その合間、登美彦氏は煙草を吸ったり、髪の毛をぐるぐるかきむしったり、好きな本をぱらぱらめくってみたりする。近所の喫茶店へ出かけて、びろーんとのびるチーズトーストを食べてみたりする。「ヒューストンヒューストン、こちら登美彦氏」と天井へ語りかけてみたりする。意味は、ないらしい。
 昨日頃から登美彦氏はようやく試行錯誤状況から脱したに見えた。
 しかし時間がなかった。
 体力も才能もなかった。
 根気も精力もなかった。
 知恵も勇気もなかった。
 

 「毛深い子!毛深い子!君もなかなかしぶといね
 
 登美彦氏はわけのわからないことを言っている。


 「もう勘弁。今日はココマデ!・・・しかしまあ、あれですな。黄金週間が、なんだかぜんぜん黄金週間らしくない人生になってしまいましたなあ」