「hon・nin」(3月8日発売)


「お詫びしたい」

 

 机上を離れた日常は、ことごとく他流試合のようなものだ。掃除も炊事洗濯も通勤も恋も仕事も酒席の礼儀作法も編集者との打ち合わせも、一切がことごとく意のままにならない。他流試合を勝ち抜くことに意義を見いだす人もいるけれども、私はごめんだ。机を離れるとき、私の身体はぎくしゃくし、頭はうまく働かず、事務処理能力はいずこへかと消え去る。したがって色々と故障が起こる。ブッキングはつねにダブルとなる宿命にあり、酒席からは逃げ去る。そんなことをいちいち詫び始めればきりがなく、ついには生まれてきてスイマセンと偉大な先達が述べたあの恐ろしい袋小路へ迷い込むほかない。だから日常のこまごまとしたことについてお詫びはしない。あくまで傲然と。
 ならば主戦場たる机上には、何一つお詫びすることがないのか。
 そんなことはない。