「小説すばる」(2月17日発売)


ヨイヤマ万華鏡

第一話「宵山姉妹」

 

 彼女と姉の通う洲崎バレエ教室は三条通室町西入る衣棚町にあって、三条通に面した四階建ての古風なビルであった。彼女たちは土曜日になると、ノートルダム女子大学の裏手にある白壁に蔦のからまった自宅から母親に送り出され、二人だけで地下鉄に揺られて街中の教室へ通ってきた。
 地下鉄烏丸御池駅からバレエ教室までの道のりはむずかしいものではなかった。三条烏丸の南西に堂々と聳えたつ煉瓦造りの銀行の角を曲がって、三条通りをまっすぐに進んでいけば、やがて左手に目指すビルが見えてくる。迷うはずもない一本道であるにもかかわらず、彼女は用心深く、姉にぴったりと寄り添って歩いた。繰り返し辿るその道を、彼女は「ここで上る」「ここで右へ曲がる」というように、自分の身の振り方として覚えこもうとする癖があった。姉が少しでも違う動きをすると、彼女は頭がこんぐらがって、見慣れたはずのその界隈がふいに見知らぬところに思われてくるのだった。