『夜は短し歩けよ乙女』(角川書店)(11月29日配本)


夜は短し歩けよ乙女

夜は短し歩けよ乙女


 森見登美彦氏曰く、「地下室に籠もってコツコツと書きためたお話が、今ここに美麗な本となり、ようやく書店にお目見えする。読者諸賢、どうか宜しく。乙女には幸福を、男には試練を!


 私はなるべく彼女の目にとまるよう心がけてきた。吉田神社で、出町柳駅で、百万遍交差点で、銀閣寺で、哲学の道で、「偶然の」出逢いは頻発した。我ながらあからさまに怪しいのである。そんなにあらゆる街角に、俺が立っているはずがない。「ま、たまたま通りかかったもんだから」という台詞を喉から血が出るほど繰り返す私に、彼女は天真爛漫な笑みをもって応え続けた。「あ!先輩、奇遇ですねえ!」