登美彦氏、竹林征伐へ乗り出す


 森見登美彦氏は満を持して、竹林伐採事業に乗り出した。
 これからの世の中、いかに売れっ子作家といえども、多角的に経営していかなければ立ちゆかないからである。
 登美彦氏は司法試験勉強に励む戦友をむりやり連れだし、京都の西、桂へ乗り込んだ。竹林の主の住居へ立ち寄って、ケーキ満載の歓待を受けて腹をふくらましてから、氏と戦友は意気揚々と竹林へ分け入る。
 登美彦氏と戦友は、しつこい蚊と戦い、巨大な蜘蛛から逃げまどい、技巧的下ネタを連呼しながら竹林の中を駆けめぐり、かぎりなく無力に近い腕力を振り絞って竹を切ったが、切っても切ってもきりがなかった。
 ついに日が暮れてきた。
 登美彦氏は「今日はここまで!」と叫び、鬱蒼と生い茂る竹林を睨んだ。「これですんだと思うなよ!I shall return!」


 登美彦氏と戦友は桂駅の阪急そばをすすった後、四条河原町へ出、錦市場そばにある「ブルース&焼き肉へんこつ」というわけのわからない名前だがその実ふつうの焼き肉店で、肉欲を満たし、冷えた麦酒をごくごく飲んだ。
 そして戦友の難航する恋の行方を占い、ままならぬ人生について語り、「今年のクリスマスイブを竹林で過ごしてはいかがか」という提案を出したあげく、全会一致で却下した。