登美彦氏動向(9/16)


▲登美彦氏は一年にわたって粛々と書いていた作品(A)の最終回を、「エイッ」と編集者へ放り投げた。まだ「おしまい!」と宣言してカルピスを飲むことは許されない。これから書き直さねばならないからである。


▲登美彦氏は作品(A)を放り投げた後、間髪入れずに作品(B)を書き、「エイッ」と編集者へ放り投げた。まだ「おしまい!」と宣言することは許されない。なぜなら開幕したばかりだからである。


▲登美彦氏はこの秋に出版される作品(C)のゲラをちらちら見て、「むーん」と唸った。もう読み返すのに飽きてきたからである。


▲登美彦氏は今月末に渡す作品(D)の腹案を練るふりをした。今まだ、腹案を練っているという時点で、いささか問題なのではないかと思う人もおられよう。登美彦氏もそう思っているらしい。けれども今さら、どうしようもない。


▲登美彦氏は職場の同僚三人の誕生日祝いのため、夜の街を奔走し、誕生日プレゼントを準備した。他人に上げるものなのに、いったん火が点いた登美彦氏の物欲は止まるところを知らなかった。そのために作品(B)を書き上げることがさらに困難になり、登美彦氏は朝四時に起床して書く羽目に陥った。自業自得である。


▲以上のことから、登美彦氏はもののみごとにへたばり、万年床に倒れ伏し、時間を棒に振った。


▲万年床にて登美彦氏はつらつら考えた。「ここしばらく、自分はたいへん苛々しておった。人と遊びにも出かけ、映画も観て、夜の街をさまよったりもし、充実した日々であったのに、それでも苛々しておった。こうして万年床に寝転んでいると、ようやく自分が苛々していた理由が判明した。自分は充実した日々だけでは生きていけない身体なのだ。「時間を効率的に使っている」という事実そのものが、絶え間なく自分を苦しめる。自分にとって最大のストレス解消法は、時間を棒に振ることなのである。そういうわけで、今後も積極的に時間を棒に振っていく。何も生み出さず、何も片づけず、ただひたすら時間を棒に振って心の平安を得る。そう決めた!」


▲半日を棒に振った登美彦氏は、やや元気を回復して、ライオン丸みたいな髪を切って捨てた。


▲登美彦氏が白川通の丸山書店を久々に覗いたら、大きな「太陽の塔」MAPの前に「太陽の塔」文庫本が積まれていた。びっくりした登美彦氏はスタコラと逃げ出し、夕闇に身を隠した。


▲明日午前九時より、登美彦氏は再起動する模様。