登美彦氏、がまがえるとなる


 森見登美彦氏はたらりたらりとあぶら汗をかいている。
 「サアお立ち会い、迫る三つの締切を睨んで登美彦氏がたらーりたらーりと流したあぶら汗を丁寧に集めたものがコレだ。この『登美彦汁』を全身にくまなく塗布すると・・・たいへん不潔である。フケツ!何も効能はないから、そんなことをしてはいけない!」


 「こんなことになってしまったのには三つの要因がある」と登美彦氏は関係者に述べた。


 一、登美彦氏が己の才能の見積もりを誤った
 二、登美彦氏に自己管理能力がなかった(登美彦氏にセルフマネージメントのアビリティがなかった)
 三、登美彦氏は編集者と約束をするときにはつねに夢見がちな乙女であった
 四、登美彦氏は友人の結婚式へ出なければいけなかった
 五、しかも友人の結婚式は徳島で開かれた
 六、しかも友人の結婚相手は美人であった
 七、しかも結婚式から帰ってきたらパソコン爆発
 八、パソコン爆発して連鎖反応的に登美彦氏も(精神的に)爆発
 九、上記の五・六・七・八によって週末を丸々失った
 十、祇園祭が近づいている


 「三つどころじゃないじゃん!」と誰もが言った。


 ぐずぐずすればするほどに仕事は玉突き状態となり、へんてこりんなことになり、登美彦氏はますますあぶら汗をかき、いっそう何も手につかなくなる。この夏は登美彦氏にとって、懐かしき受験戦争時代以来の天王山となる。
 登美彦氏は半ば錯乱しながら、カレンダーの七月を延長し、七月五十八日(日)まで作成した。
 「俺の中では、七月は五十八日まであるのだ。そう決めた。これで大丈夫・・・いける!」
 登美彦氏は無駄なことをして時間を潰している。