「大文字納涼船合戦」
狸はまねることを信条とする。
花鳥風月をまねるのも風流だが、やはりいちばん味があるのは人間をまねることであろう。そうやって人間の生活や行事にどこまでも相乗りして遊ぶのが、なんだか妙に面白い。このやむにやまれぬ性癖は、遠く桓武天皇の御世から、脈々と受け継がれてきたものに違いなく、今は亡き父はそれを「阿呆の血」と呼んだ。
「それは阿呆の血のしからしむるところだ」
我々兄弟が何か悪さをして騒ぎを起こすたびに、父はそう言って笑ったものだ。
夏の風物詩たる五山送り火の宵、浮かれる人間どもに調子を合わせて、我ら狸が浮かれるのも、結局はその阿呆の血のしからしむるところであろう。
および
■「狸のはなし」に関するインタビュー