巨星堕つ


 森見登美彦氏は自分のあまりの教養のなさを反省して、「北斗の拳」を読んでいたが、とうとうラオウケンシロウに敗れた。「我が生涯に一片の悔いなし!!」とは、なんにしろとてもすごい最期の言葉であると登美彦氏は考えた。ラオウほどの男が言うのだから説得力があろう。
 「我が生涯に一片の悔いなし!!」と言えと命じられれば一時間後でも言えるな、などと安閑と考えていた登美彦氏は、残り九十四年かけて二十一世紀末覇者への道を歩む決心をしたりなどせず、低い志をもった人間に生まれた幸運を天に感謝したという。
 「考えてもみたまえ。誰もかれもがラオウのごとく高い志をもって世紀末覇者を目指したら、世の中ずいぶんギスギスするではないか。ほどほどでいくがよかろう。そして、かよわい爺さんから貴重な種籾を奪うのはやめよう」
 登美彦氏は誰にともなく呼びかけた。