森見登美彦氏はコンビニエンスストアにて、カップヌードル塩の無料引換券を当てた。
次々と畳みかける幸運の量が半端ではない。
こんなことはあり得ない。
登美彦氏は不安に襲われている。
「禍福はあざなえる縄のごとし。幸運の次には不幸が来るに決まっている。いち早く、幸運の女神の先手を打たねばならん。やらなければやられる!」
今週末、登美彦氏は俗世へのいっさいの興味を断ち切って地下室に籠もり、一段落書いては立ち止まる書き物を懲りずにうにうに書く所存だが、考えてみれば毎週末そうである。
登美彦氏はさすがに危機感を感じた。
「恋するヒマもありゃしない!」
登美彦氏は言った。
氏はこの台詞に頼りすぎだ、というのが大方の見解である。
登美彦氏はデキる男になるため、部屋の画期的な整理法および斬新極まる登美彦式時間管理法を体系化するべく懸命な努力を重ねているが、その新手法の開発へ時間を取られて、さまざまな仕事が滞りだした。
「便利至極な時間管理法を開発しているにもかかわらず時間がないとはこれ如何に?時間管理法を開発するための時間を捻出するための時間管理法を作ることが緊急の課題だ」
登美彦氏はなんだかおかしいことを言っているが、いつものことなので誰ひとり気にしない。