四畳半王国見聞録(新潮社)

 
 


 森見登美彦氏の第十一子が近々誕生することをここにお知らせする。 
 発売日等の詳細は下記を参照。
 http://www.shinchosha.co.jp/book/464503/


 タイトルに「四畳半」とある。
 したがって、多くの人が『四畳半神話大系』の続編だと思うかもしれない。
 騙されてはいけない。
 これは登美彦氏による悪辣きわまる企みである。『四畳半神話大系』の活動漫画化に伴う知名度上昇を有利に活用しようとしているのだ。
 四畳半がしきりに出てくる以外、ほとんど関連はないのである。
 たしかに登美彦氏はきわめて判りにくい形で関連を忍び込ませている。しかし、そんなものを発見したところで何になろう。楽しいばかりで何の益もない。


 この単行本は、登美彦氏が数年にわたって書いた四畳半的短編七篇を集めて、それらを大幅に加筆修正したものである。これらの短編が登美彦氏本人にもよく分からない複雑怪奇なかたちで相互に結びつくことで、聖なる阿呆神の統べたもう四畳半的宇宙が、強いて見せるほどでもないその全貌をあらわす。
 以下、簡略に内容を紹介する。


「四畳半王国建国史
 一人の四畳半主義者が不退転の決意をもって四畳半という空間に挑み、素晴らしい王国を作り上げるまでの栄光の物語である。登場人物はほぼ一名である。恋の予感はない。  

  
「蝸牛の角」
 きわめて特殊な四畳半的宇宙の構造について書かれた物語である。どこかで登場した人物たちが大勢入り乱れる。これを読めば四畳半的宇宙とは何かという漠然とした問題について、漠然とした回答を得ることができよう。

 
「真夏のブリーフ」
 水玉ブリーフの男をめぐるミステリアスな夏の日の物語である―こう書くと、何か神秘的な奥行きのある作品のように感じられるのが筆者も不思議であるが、今まさに読者が期待したような内容とはぜんぜん違うということだけは保証できる。


「大日本凡人會」
 凡人を目指す非凡人のための集い、すなわち「大日本凡人會」の男たちが、唐突に出現した最強の敵と死闘を繰り広げる物語である。そして、彼らの真の戦いはここから始まるのだが、その先のことは登美彦氏にとって知ったことではないという。


「四畳半統括委員会」
 謎であることが目的であるような謎の組織「四畳半統括委員会」をめぐって、さまざまな人々の思惑が交錯する物語である。ほとんど、交錯するだけなのである。


「グッド・バイ」
 己は誰からも好かれていると満腔の自信で「はちきれそう」になっている一人の男が、友人たちにサヨナラをしてまわる物語である。タイトルは太宰治の短編小説からだが、内容はあまり関係ないようである。


「四畳半王国開国史
 一人の四畳半主義者が不退転の決意をもって四畳半という空間に挑み、素晴らしい王国を作り上げた。その後、彼はいかなる冒険の旅に出たか、という物語である。登場人物はほぼ一名である。恋の予感はやっぱりない。


 以上である。
 すでに明らかにした通り、『四畳半王国見聞録』には甘酸っぱさがカケラもない。
 これは男汁で煮染めた四畳半内部で繰り広げられる禁欲的かつ浪漫的冒険の記録であり、その色気のなさと救いようのなさは他作品の追随を許さない。
 見渡すかぎり阿呆ばかりである。
 それだけである。