太陽の塔(5月29日発売)


 新潮文庫版刊行に際し、森見登美彦氏は以下のように述べた。


 日本ファンタジーノベル大賞を受賞した後、のらりくらりと日を送るうちに、処女作が文庫本となる幸運にめぐまれた。日本全国津々浦々へ、よりコンパクトでお手頃価格となった恥ずべき青春を垂れ流す。これは著者にとっても読者にとってもまことに慶賀すべきことである。
 いまだ我が処女作を読んだことのない方は、色々な意味で気軽に読めそうにもないこの渾身の一作を、電車の中などで敢えて気軽に読んでみるのも一興である。すでに単行本を持っているという奇特な方は、この機会に文庫も合わせて買うことをお勧めする。大きいものと小さいものを二つならべるところに、言うに言われぬ味がある。大小を必ず揃えるのは紳士淑女のたしなみだ。
 処女作には、その書き手の一切合財が詰まっているという。処女作を越える小説は書けないと著者自ら断ずる以上、「太陽の塔」から後の森見登美彦氏の活動は、あくまで工夫を凝らした余録にすぎない。したがって、この一作で森見なにがしを見かぎるも見かぎらないも、当然ながら読者の御自由であると申し上げる。
 ちなみに文庫化に際して、本上まなみさんの解説を頂いた。
 無茶を言って解説をお願いした後、作中で著者とは似て非なる主人公が乗りまわす自転車の名前に使ったりしたことを冷静に思い返し、消え入りたい思いをしたが断固消え入らなかった。本上まなみさんは寛大にも、かくも破廉恥な著者を許され、お忙しいなか丁寧な解説を書いて下さった。
 本上まなみさんのカレンダーは大学時代を通じてつねに我が四畳半の壁を燦然と輝かし、彼女こそは薄暗き青春の片隅を照らす一条の光であった。自著のためだけに書かれた解説の一言一句が、我が皺深き脳の谷間に延々とこだましたのは言うまでもない。
 今ここに黄金の解説を得て、我が唾棄すべき青春に一抹の悔いもなし。ありったけの感謝の意を表する次第である。