プレゼントキャンペーン、イベントのお知らせ

 文藝別冊『総特集 森見登美彦』の発売を記念して、現在プレゼントキャンペーンがおこなわれている。サイン入りポラロイド写真などというプレゼントが混じっている点は、生温かい気持ちで大目に見ていただきたい。「森見登美彦をつくった100冊」から選ばれた5冊の書籍セットは読みごたえのある素晴らしいものである。

 ご応募いただければ幸いです。

web.kawade.co.jp 

 また、国立民族学博物館京都国立博物館において対談イベントがおこなわれる。どちらも申し込み締切まであと僅か。よろしくお願いします。 

books.bunshun.jp京都国立博物館のイベントについては下記を参照。

https://www.kyohaku.go.jp/jp/event/etc/20190203_morimishi.html

森見登美彦氏、直木賞に敗北する。

熱帯

熱帯

 

  昨年のクリスマス・イブのことである。

 万城目学氏が京都へやってくるというので、劇団ヨーロッパ企画上田誠氏も交えて忘年会をすることになった。たしか一昨年の聖夜も、この三人のおっさんたちで清らかな京都の夜をさまよった。ひょっとして、これから死ぬまで聖夜はこのメンバーで過ごすことになるのだろうか……。

 ともあれ、万城目学氏が京都へ来るというなら、知らんぷりはできない。

 そういうわけで、世にも清らかなおっさんたちは京都市内で落ち合うと、タイ料理店で皿いっぱいのパクチーをもぐもぐ頬張り、次に立ち寄った小料理屋で「我々は文士である」と主張したところ「は?」と問い返されて恥じ入ったりしつつ、花見小路のそばにある静かな酒場へと流れつく頃にはすっかり夜も更けていた。

 

 その夜、登美彦氏の直木賞候補の件が話題になった。

 なにしろ万城目学氏は落選経験豊富な歴戦の強者である。万城目氏と登美彦氏が同時に候補になったのは2007年のことだが、その後、万城目氏が落選経験を着実に積み重ねる間、登美彦氏はまったく蚊帳の外にあり、最近になって万城目氏からバトンを受け継いだかのごとく二回候補になった。このたび、ふたりで通算八度目のチャレンジということになる。

 「我々は登山ルートを間違えている、どう考えても」

 万城目氏と登美彦氏はそんな話をした。

 直木賞というものをひとつの険しい山だと考えると、山頂へ至るための妥当な登山ルートがあるはずである。にもかかわらず、我々はわざわざヘンテコなオモシロ登山ルートを選び、当然の帰結として転落を繰り返している。「あいつら、なんであんなおもしろおかしいところから登ろうとしているんだ。阿呆じゃなかろうか」と思われているにちがいない。だからといって今さら小説の書き方を変えるわけにもいかず、そもそも候補になるかどうかを決めるのも自分たちではない。日本文学振興会の深遠な意図は我々の理解の及ばぬものである。結局どうしようもないよねー、という結論に達するほかない。

 午前二時頃、酔っ払ったおっさんたちは酒場を出て、よろよろと夜の祇園を歩き、四条大橋を渡り、やがて四条河原町の交差点にさしかかった。

 「クリスマス・イブの四条河原町!」

 ここですかさず登美彦氏の処女作『太陽の塔』を引き合いに出してくれるところが上田誠氏の気遣いである。とりあえず彼らは、がらんとして人通りも少ない聖夜の交差点で「ええじゃないか」記念撮影をした。

 そして「良いお年を」と言い合いながら解散したのであるが、

 「直木賞を取ってくれや、トミー」

 別れ際、万城目学氏が唐突に言った。

 「この登山ルートでも登れることを証明してくれ」

 

 というわけで、直木賞選考会の当日である。

 午後五時に登美彦氏は神保町「ランチョン」を訪れた。候補作『熱帯』にも登場する店であり、待ち会をするのにふさわしいと考えたのである。

 登美彦氏がぽつねんと座っていると、各社の担当編集者や国会図書館の元同僚が合流してきて賑やかになった。国会図書館関西館に勤めるH氏は「今回こそは受賞する」「競馬で鍛えた俺の勘に間違いはない」「歴史的瞬間に立ち会うんだ」と言い張って、登美彦氏が止めるのも聞かずに上京してきた。また、『熱帯』に登場している元同僚のK氏も「きたよモリミン!」と楽しそうに姿を見せた。

 それにしても電話を待つのはイヤなものである。言葉少なにバヤリースをおかわりしながら待っているうちに腹がたぷたぷになってしまう。ランチョンの窓の外はだんだん暮れてきて、街の灯がきらめき始めた。

 電話が鳴ったのは午後六時半頃であった。

 みんなが息をひそめる中、登美彦氏は電話を取った。結果はすでに皆様ご存じのとおりである。登美彦氏は電話をおくと、自分のためにランチョンに集まってくれた人々を見まわして「残念でした」と言った。

 元同僚たちは口々に叫んだ。 

 「あんなに面白くても駄目なのかい、モリミン!」

 「(俺の胸で)泣いてもええんやで!」

 持つべきものは友である(泣かないが)。

 ここで登美彦氏が思いだしたのは、昨年のクリスマス・イブに万城目氏と交わしたやりとりである。

 おそるべき直木賞マウンテン、我ら通算八度目の挑戦も敢えなく失敗してしまった。「この登山ルートはやはり登れません」と登美彦氏が万城目氏に無念の結果を伝えると、万城目氏からは「お天道様は見ている」と慰めの言葉が送られてきた。しかしそのとき、登美彦氏は用心深く考えたのである。万城目氏は内心ほくそ笑んでいるにちがいない。このように登美彦氏にオモシロ登山ルートを攻略させる一方、すでに自分は別の登山ルートを模索しているに決まってる。まったく油断のならない人物なのである。

 

 いずれにせよ、登美彦氏の無謀な挑戦は終わった。

  「バヤリースはもう沢山です、麦酒をください」

 登美彦氏は言った。

 「これより、この待ち会を『新年会』とする」

 かくしてランチョンに集った人々は、さらに合流してきた編集者や友人をゆるやかに迎え入れつつ、賑やかに神保町の長い夜を過ごしたのであった。奈良で待つ妻に登美彦氏が無念の結果を知らせると、「あなたのために集まってくれた人たちに感謝をお伝えください」と返事がきた。まことに妻の言うとおり、登美彦氏はすべての人に感謝しなければならぬ。編集者と友人たちが入り乱れて混沌としていく新年の宴を眺めながら、登美彦氏は温泉につかっているような幸福な思いに充たされたのである。

 たしかにこの落選によって、伏見稲荷大社まで受賞祈願に出かけた父親は選考委員諸氏に対して怒り心頭に発するであろうし、執筆の苦労をともにしてきた妻はやはり哀しむことだろう。しかしながら、このように味わい深い新年会を楽しめるのも、直木賞のおかげであると言わねばならない。

 落選もまた人生だ。

 

 真藤順丈さん、受賞おめでとうございます。

 心よりお祝い申し上げます。 

宝島

宝島

 

「総特集 森見登美彦(文藝別冊)」本日発売。

 文藝別冊、本日発売であります。

 昨年の晩秋、担当編集者が「編集しても編集しても編集作業終わらず、ジッと手を見る……」と途方に暮れたほど盛りだくさん、読んでも読んでも終わらないのである。森見登美彦氏の小説をそれなりに憎からず思っている人には、「お買い得」以外のナニモノでもないと信ずる。

 手に取っていただければ幸甚であります。 

森見登美彦氏、『嵐が丘』を読む

オール讀物 2019年1月号

オール讀物 2019年1月号

 

 森見登美彦氏は、万城目学綿矢りさの両氏と読書会を開いた。

 課題図書としてエミリー・ブロンテの『嵐が丘』を選んだのは登美彦氏である。途中まで読んで挫折したことがあったが、「読書会」という動機付けがあれば読み切れるだろうと考えたのである。「この小説は万城目学氏の好みではあるまい」というイジワルな魂胆もあった。

 案の定、万城目学氏はかなりの苦戦を強いられたらしく、読んでいる最中、「この家政婦の昔話はいつ終わるんやトミー……」などという嘆きのメールを登美彦氏に送りつけてきたりもした。とはいえ、そんな万城目学氏も読書会は楽しかったという(本人談)。たとえ苦戦を強いられた本であっても、否、むしろ苦戦を強いられてこそ、読書会は楽しいものである。ちなみに綿矢りさ氏は「面白かったっす」と言っていた。

 今回、森見登美彦氏は『嵐が丘』を読んで、この古典的作品がじつにヘンテコで歪んだ作品であることに魅了されてしまった。恋愛小説というよりも怪奇小説、いっそのこと「エミリー妄想劇場」と言いたくなる。「モリミー妄想劇場」としか言いようのない作品ばかりを書いている登美彦氏としては、親近感を覚えざるを得なかった。

嵐が丘 (新潮文庫)

嵐が丘 (新潮文庫)

 

コミック『太陽の塔(1)』発売

  クリスマスが目前に迫っている。

 というわけで、このコミックを出版するのにピッタリの時期と言わねばならない。

 原作『太陽の塔』は、今を去ること十五年前に出版された登美彦氏のデビュー作である。

 今あらためて『太陽の塔』を振り返ってみると、その後に登美彦氏が書くことになるすべての小説の萌芽がここに見られる。登美彦氏は十五年をかけて、太陽の塔の足下をぐるりと一回転したようなものである。そして、『四畳半神話大系』や『夜は短し歩けよ乙女』へと進むにつれて、登美彦氏が切り捨てていかざるを得なかった切実さや哀愁もまた、この作品にはある。

 マンガ化にあたって、かしのこおりさんは、冬の京都の街を一人さまよう大学生の哀しみを、妄想や笑いの裏側にきちんと忍ばせてくれている。それゆえにこのマンガは、よくダシの染みたオデンのように、じっくりと味わえる作品なのである。冬の夜にコタツで読むべきマンガである。

 こちらで試し読みもできます。 

morning.moae.jp

 そして原作もまたヨロシクお願いいたします。

太陽の塔 (新潮文庫)

太陽の塔 (新潮文庫)

 

コミック「ペンギン・ハイウェイ02」

熱帯

熱帯

 

  二年前の『夜行』に続いて、登美彦氏の作品『熱帯』が直木賞の候補になった。そういうわけで年が明けたら、登美彦氏はまたひやひやしながら過ごすことになる。たいへんなことである。

 ところで、コミック「ペンギン・ハイウェイ02」が12/21に発売される。

 第一巻と合わせて、ご購入いただければ幸い。 

  また来年一月には、映画「ペンギン・ハイウェイ」のblu-rayも発売されるらしく、先日出町座で会った石田監督からは「付録も盛りだくさん」と聞いている。というわけで、お買い上げいただければ幸いである。

 原作を読んでいなくても何ら問題はないが、やはり登美彦氏としては原作をオススメしなければならないだろう。この映画をきっかけに原作を手に取ってくれる紳士淑女は、みなさん素敵な、尊敬すべき人たちであるにちがいない。そういう素晴らしい人たちに幸あれかしと登美彦氏は祈っている。

ペンギン・ハイウェイ (角川文庫)

ペンギン・ハイウェイ (角川文庫)

 

 

「総特集 森見登美彦(文藝別冊)」出版とサイン会のお知らせ

総特集 森見登美彦 (文藝別冊)

総特集 森見登美彦 (文藝別冊)

 

 来年早々の1月14日、このような本が出版される。

 かつて雑誌「文藝」でおこなわれた特集をパワーアップさせたものであり、単行本未収録の短篇群、佐々木敦氏によるロングインタビュー、登美彦氏自身による全作品解説、恩田陸氏や黒田硫黄氏との対談、大勢の方々によるエッセイ・論考やマンガ、書店員さんたちの座談会、詳細きわまる用語事典、(妄想を含む)略年譜、少年時代から現在まで登美彦氏に影響を与えてきた本や映画をコメントつきでリストアップする「森見登美彦をつくった100作」等々、えげつなく盛りだくさんの内容となった。どうして登美彦氏は『熱帯』のような怪作を書くに至ったか。その理由もこの本を読めば少し想像できるかもしれない。読みごたえがあることは間違いない本なので、手に取っていただければ幸甚である。

 この出版を記念してサイン会が開催される。

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 2019年1月14日(月・祝)に、「文藝別冊 総特集 森見登美彦」(1月10日発売)刊行記念サイン会を、ジュンク堂書店池袋本店で開催いたします。12月14日12時(正午)より、ジュンク堂書店池袋本店【TEL03-5956-6111】でサイン会整理券のご予約を承ります。ご予約は電話予約のみ、先着順となりますので、お早めにお申し込みください。詳細は12月14日12時以降、書店HP内で告知されます。

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 よろしくお願いいたします。

 以下は目次である。

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目次

沈黙"しない"読書会について

 

熱帯

熱帯

 

 

 昨日、森見登美彦氏は紀伊國屋書店梅田本店にてサイン会を行った。いささか風邪気味であった登美彦氏も、読者の皆様の熱気によってホカホカに温められたのであった。あたかも温泉につかったかのごとし。お越しいただいた皆様、ありがとうございました。

 

 ところで『熱帯』の公式ページが新しくなったようである。 

www.bunshun.co.jp

 そして現在、「沈黙"しない"読書会」と題して、読書会イベントの参加者を募集中である。「我こそは」と思う読者の方はぜひとも応募していただきたい。参加者は抽選で決まるようだが、募集期間が短いので注意されたし。

books.bunshun.jp

 そしてこちらも引き続きよろしく。 

books.bunshun.jp

『熱帯』発売と「王様のブランチ」

熱帯

熱帯

 

 『熱帯』が 全国の書店に姿を見せつつあるにもかかわらず、森見登美彦氏は風邪っぴきで自宅に引き籠もっている。書店へ偵察に出かけた妻から「ちゃんと並んでいます」と報告を受けることしかできなかった。我が子の旅立ちの日をハツラツとした気持ちで迎えたかったが、こればかりはしょうがない。うがい手洗いに気をつけていても、引くときは引くのが風邪である。

 土曜日の「王様のブランチ」に登美彦氏が登場する。登美彦氏は吉田山を久しぶりに歩きまわりつつ、『熱帯』についてモソモソ語った。そのモソモソぶりは大目に見ていただきたい。なぜなら登美彦氏はテレビで輝く人ではなくて、机上で輝く人だからである。そうとも。

 『熱帯』を買おうかどうか迷っている人は、下のような「試し読み版」もある。第一章を読んで「つまらん!」ということであれば登美彦氏は何も言うまい。サヨウナラまた会う日まで。しかし「オモシロイ!」ということであれば、ぜひ単行本でも電子書籍版でも購入していただければ幸いである。

 なお、この小説は「幻の本」についての小説だから、「単行本で読む方がちょっぴり味が濃く感じるかもしれない」と登美彦氏は小声で呟いている。

熱帯 試し読み版 (文春e-book)

熱帯 試し読み版 (文春e-book)

 

 

『熱帯』サイン会のお知らせ

熱帯

熱帯

 

 『熱帯』の出版を記念して、森見登美彦氏のサイン会が開催される模様である。

 → 三省堂書店有楽町店の受付は終了しました。

 → 紀伊國屋梅田本店の受付は終了しました。

 申し込みありがとうございました。